HYROXは「後半3区間」で差がつく
58,852人・58大会の結果を俯瞰すると、順位を分けるポイントは序盤ではなく終盤でした。この記事では、今日の練習にそのまま落とし込める形で、優先順位を整理します。
この記事の要点
- 総合タイム差に効く上位は Wall Balls(2.28分)、Run8(2.07分)、Run7(1.97分)。
- Run8の失速率は Sub-70で+20.0%、Sub-100で+37.2%。終盤の崩れを止めるほど記録は伸びやすい。
- 短期で狙うなら「全体を均等に強化」より、Wall Balls・Run7-8・Roxzoneを先に整える方が効率的。
- 4週間は「止まらない型づくり」を優先すると、次レースで再現しやすい。
目次
1. なぜ「後半3区間」が記録を分けるのか
HYROXのレース中盤までは、勢いである程度ごまかせます。 ただ、Run6以降は疲労が重なり、フォーム、呼吸、判断力が同時に落ちます。 ここで崩れると、1つの種目だけでなく、次のランと次の種目まで連鎖的に遅くなるのが厄介です。
実データでも、総合タイム差への影響は終盤が上位を占めました。 特にWall BallsとRun7-8は、速い選手とそうでない選手の差が一気に広がるポイントです。
ここでのポイントは「Wall Ballsだけ速くすれば解決」ではないことです。 終盤は、ランの入り方、呼吸、レップ分割、失敗後の立て直しまで含めた総合力が問われます。
2. Sub-100前後で起きやすい失速パターン
Run1とRun8を比べたとき、上位層ほど落差が小さく、完走時間が長い層ほど落差が大きい傾向が出ました。 つまり「速さ不足」よりも「後半で崩れないこと」が、まず効きます。
Sub-100を狙う選手に多いのは、次の3つです。
- Run3-4まで速すぎて、Run7で脚が売り切れる。
- Burpee BJやLungesの直後に呼吸が整わず、Run7-8で歩きが混ざる。
- Wall Ballsをノープランで入って失敗し、長い停止を繰り返す。
VO2maxの底上げはもちろん有効ですが、4週間でレースタイムを現実的に縮めるなら、 まずは「後半で止まる回数」を減らす方が即効性があります。
3. どこから手を付けると最短で伸びるか
次の図は「影響の大きさ」と「ばらつき(改善余地)」を重ねた優先順位マップです。 右上にあるほど、練習投資の回収が大きいと解釈できます。
優先順位は次の順がおすすめです。
- Wall Balls: 分割レップと呼吸を固定し、失敗からの長停止を防ぐ。
- Run7-8: 速く走るより、歩きゼロでつなぐ。
- Roxzone: 入り方・置き方・出方を固定し、迷い時間を削る。
この順番は、英語圏の実践記事で繰り返し語られる「序盤の出し過ぎを避ける」「トランジションで秒を捨てない」という原則とも一致します。
4. 4週間プラン(Sub-100狙い向け)
週2〜3回のHYROX特異的セッションが確保できる想定です。 目的は「神回を作ること」ではなく、終盤の再現性を上げることです。
Week 1: 現状の可視化
- テストセット: Run6 → Lunges → Run7 → Wall Balls → Run8(1回)
- 記録項目: Run7/8のペース、Wall Balls停止回数、Roxzone合計秒数
- Wall Ballsは合計タイムだけでなく「何レップごとに止まったか」を必ず記録
Week 2: 崩れない型を作る
- Wall Balls分割を固定(例: 20-15-15-10-10-10-10-10)
- Run7の最初200mは抑えて呼吸を戻す練習を徹底
- Roxzoneで使う動線と手順を固定(飲む/拭く/持つの順番を毎回同じに)
Week 3: 疲労下で再現する
- セット例A: 1km Run + Burpee BJ(短縮版)を3〜4本
- セット例B: 1km Run + Lunges(短縮版)を3本
- 評価は「速さ」より「歩かない」「停止しない」
Week 4: レース仕様で確認
- Week1と同じテストを再実施
- 改善目安: Run8低下率、Wall Balls停止回数、Roxzone合計
- 当日の分割・入りのルールを紙かメモに明文化
5. レース当日の実行ルール
- Run1-2は「稼ぐ区間」ではなく「借金を作らない区間」と考える。
- Run4以降は周囲のペースではなく、自分の呼吸リズムを基準にする。
- Lunges後のRun7は最初200mを整える。最初から上げすぎない。
- Wall Ballsは最初から分割前提。ミス後に立て直すより崩さない方が速い。
- Roxzoneは全力疾走より、迷いゼロの動線が勝つ。
6. よくある失敗と修正方法
| 失敗パターン | 起きる場面 | 修正方法 |
|---|---|---|
| 序盤のオーバーペース | Run1-3 | Run1を目標ペースより少し遅く入り、Run2で合わせる |
| Wall Ballsで長停止 | 終盤 | 分割を事前固定し、失敗時の再開レップを決めておく |
| Roxzoneで毎回迷う | 全区間 | 置く場所・進行方向・手順を固定して自動化する |
| Run7で歩きが入る | Lunges後 | 最初200mは心拍回復に使い、後半で一定ペースへ戻す |
7. HYFITで追うべき3つの数字
- Run8 / Run1 比率: 終盤失速の定点観測。
- Wall Balls 停止回数: 崩壊の予兆を最も早く捉えられる。
- Roxzone合計: 体力に依存せず短縮しやすい。
この3つが改善していれば、総合タイムはかなりの確率で伸びます。 逆に、どれかが悪化しているときは、練習量よりペース配分と手順を見直す方が先です。
8. よくある質問
Q. まず走力を上げるべきですか?
走力強化は必要ですが、Sub-100前後では「後半で止まらないこと」の改善幅が大きいです。 まずはRun7-8とWall Ballsの崩れを抑え、その上でランの純粋なスピードを伸ばす順番が効率的です。
Q. Wall Ballsは毎回重い重量で練習すべきですか?
常に重くする必要はありません。目的別に、フォーム再現日とレース重量日を分けた方が安定します。
Q. 4週間でどれくらい変わりますか?
個人差はありますが、停止回数とRoxzoneを削れる選手は、まず1〜3分の短縮が狙えるケースが多いです。
この記事の結論
- HYROXのタイム差は終盤3区間で広がりやすく、Wall Balls・Run7-8・Roxzoneの優先管理が効果的です。
- Sub-100帯は、まず「後半で止まらない型」を作ることが、短期で最も再現性の高い改善ルートです。
- 次レースまでの4週間は、速度向上より停止回数の削減を優先すると結果につながりやすくなります。
用語ミニ解説
- Sub-100: HYROXを100分未満で完走すること(例: 99分30秒)。
- Sub-70: HYROXを70分未満で完走すること。
- VO2max: 全力に近い運動時に体が取り込める酸素量の上限。ざっくり言うと「有酸素エンジンの大きさ」。
- Roxzone: ランから種目、種目からランへ移るトランジション区間。
方法と解釈の注意
本記事の数値は公開レース結果の統計分析に基づいています。個々の因果を直接証明するものではありませんが、 練習の優先順位を決める実務用途としては十分に有効です。
データ出典
Yamanoi, S. (2026). Winning Strategies in HYROX: A Machine Learning Approach to Race Performance Optimization. Zenodo. DOI: 10.5281/zenodo.18683662
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